●突然死を招く静かな血液の異常「血糖値スパイク」

もしあなたが医師から「血糖値に気を付けて」と言われたら、まず糖尿病を思い出すのではないでしょうか。しかし今回お伝えする血糖値異常は、正式な糖尿病患者ではない人にも認知症や心筋梗塞や突然死も引き起こすと言われている「血糖値スパイク」です。

​糖尿病ではないのに?

血糖値スパイクは別名、食後高血糖ともいい、その名の通り、食後数時間以内にのみ、血糖値が急上昇する病気です。

健診や人間ドックではかる食前血糖は正常範囲の人にも起こります。

やせ型の20代の人にも起きる​

一般的な糖尿病との違いはまだあります。いわゆる2型糖尿病は生活習慣病で、肥満の人に起こりやすいのですが、血糖値スパイクは、20代のやせ型の人にも生じます。老若男女、誰にでも発症する可能性があるのです。

血管の細胞から活性酸素が発生し突然死へ

イタリアの研究者グループが血糖値スパイクのメカニズムを解明しました。

それによると、血糖値スパイクの患者の血管の細胞から大量の「活性酸素」が発生し、それが血管の細胞を傷つけます。血管が傷つくことで動脈硬化が起き、心筋梗塞や脳梗塞、そして突然死を引き起こします。

​脳内の「有害物質」を増やし認知症に

糖尿病はインスリンが相対的に足りなくなる病気ですが、血糖値スパイクは死蔵からのインスリン分泌をを過剰に増やします。インスリン分泌が過剰になると、脳内のアミロイドベータが蓄積されることが分かっています。

アミロイドベータはアルツハイマー型認知症の原因といわれています。

つまり血糖値スパイクは動脈硬化のみならず、認知症をも引き起こすのです。

​生活習慣の改善に取り組もう、野菜から食べよう​

血糖値スパイクの危険因子は、肥満、高血圧、喫煙、運動不足、そして食べ物です。これは糖尿病の危険因子と同じですね。

血糖値スパイクでは、食後の血糖値が急激に上がる症状が問題になるので、血糖値を上げない食べ方が重要になります。

それはまず野菜から食べ始めることです。野菜に含まれる食物繊維が腸の壁に「バリア」を作り、野菜の後に食べる肉や魚に含まれる糖の吸収を抑えるのです。

また、血糖が上がりにくいGI値の低い食べ物を選択することも有効でしょう。

「正常」の中に潜んでいる「異常」への気付き​​

血糖値スパイクを必要以上に怖がる必要はありませんが、健康診断で血糖値が「正常」と

言われても安心できないという恐さがあります。

現在の医療はまだまだ完璧ではなく、「正常の中の異常」が存在することに注意したいものです。

●攻めのインスリン治療 BOT

​「攻めのインスリン療法」ではBOT(basal supported oral therapy)が多く行われます。

従来の治療とどこが違うのか説明します

空腹時高血糖を解消してから食後高血糖を抑える

糖尿病が軽度の患者さんには食事療法と運動療法のみによる治療が行われます。これは生活を見直していただくことで、基本的ですが糖尿病治療の根幹です。

しかし、それでも病態が悪化すると、飲み薬での治療が必要にになります。医師としてはここでなんとか現状維持、または改善を目指したいところですが、糖尿病はとにかく手ごわい病気なので、膵臓の機能も低下し急激に悪化する人が多いのが実情です。

そうなると、血糖値を下げるためにはインスリンの自己注射が必要となります。これは患者さん自身が注射器を持ち、1日3~5回も自分で打たないとならないので、生活の質はかなり低下し、「難しい治療」のひとつでした。これが従来の治療法です。

ところが攻めのインスリン治療「BOT」は、飲み薬と「持効型(じこうがた)」と呼ばれる自己注射を組み合わせることで、1日1回の自己注射で治療が可能となったのです。

「持効型」とは「インスリンの効果が長く持続する」という意味です。

ここで空腹時高血糖と食後高血糖を思い出してください。ベースとなる空腹時高血糖の上に、食事をした後に血糖値がさらにグンッと上がる食後高血糖が起きる、という症状です。

持効型インスリンは、主に「だるま落とし」のように空腹時高血糖を全体的に低下させることができ、空腹時高血糖の問題を解消出来る可能性が高いです。

後は食事療法や、飲み薬で食後高血糖をコントロールすることでバランスをとっていきます。

●「攻めのインスリン治療」は糖尿病の悪化を防ぐだけでなく膵臓の回復も!

いま我々糖尿病専門医の間では、糖尿病のインスリン治療が話題になっています。

これまでの常識を覆すパラダイムシフトが起きているといっても過言ではありません。

それは「攻めのインスリン治療」といい、最後の手段としてではなく、インスリン注射を1日1回で済ませることが可能となり、糖尿病治療として先手を打つことが可能となったからです。

インスリンの自己注射治療を続けている方だけでなく、糖尿病予備軍と診断された方も、ぜひご一読ください。

インスリン自己注射が1日1回でよくなったワケ

「攻めのインスリン治療」の最大の特徴は、これまで1日3~5回打たなければならなかったインスリン自己注射が、1日1回の注射でOKになったことです。

糖尿病は、膵臓で作られるインスリンが分泌されなかったり、分泌されたインスリンがきちんと働かなかったりすることで起きます。

インスリンが血液の中に含まれていないと、血液中の糖が細胞に吸収されないことから、血糖値が上がることになります。

これが「高血糖」という状態です。

高血糖が食後に起きることはみなさんもご存じだと思いますが、実は空腹時にも高血糖が起きています。

つまり高血糖には「食後高血糖」と「空腹時高血糖」があり、2つは性質が異なります。

ショートケーキで例えますと、ベースとなるスポンジが空腹時高血糖になり、その上に乗っているクリームやイチゴが食後高血糖となります。

つまり症状が重い糖尿病の患者さんは、空腹時高血糖というベースの病気の上に、食後高血糖という別の病気が乗っている状態なのです。

​治療初期にも効果的、BOTは膵臓の回復にも期待大

インスリン注射は最終手段と考えている患者さんは少なくありません。

というより、ほとんどの患者さんは「インスリンの自己注射だけはしたくない、インスリンを打ったら最後」と考えています。

しかし攻めのインスリン治療BOTは、インスリンの自己注射を使った治療なのですが、糖尿病の初期の患者さんにも用いることができるのです。

そう、現在は糖尿病治療のパラダイムシフトの時代なのです。

糖尿病は「膵臓が疲れている病気」という側面もあり、膵臓が疲れ切ってまったく働けなくなる前に、BOTで膵臓の手助けをしてあげると、膵臓の回復を促すことができるのです。

そして、膵臓がかなり回復した患者さんは、半年から1年後にはインスリン自己注射を中止することができるのです。

BOTのお蔭で「インスリン注射は一生続けなければならない治療」ではなくなったのです。

当院に通院している患者様でもインスリン治療を早めに開始し、すでに卒業した「卒業生」が100名以上いらっしゃいます。

糖尿病は以前から早期治療の重要性が訴えられてきましたが、攻めのインスリン治療BOTの登場でさらに早期治療の重要性が増したといえるでしょう。

​3大合併症を食い止めろ!

糖尿病には3大合併症があります。糖尿病性網膜症になると失明する恐れがあります。

糖尿病性腎症が悪化すると、週3回、1回4時間の人工透析による治療が必要になり、生活の質はさらに悪化します。

糖尿病性神経障害が起きると足が壊死して、最悪、切断ということになりかねません。

糖尿病治療は、この3大合併症を起こさないための治療といえます。

そして攻めのインスリン治療BOTは、この3大合併症のリスクを下げることも分かっているのです。

さて、糖尿病の新しい治療法について解説してきましたが、医師として、最後に1つだけ注意させてください。

それは「食事療法と運動療法は、一生続けてください」ということです。

良い治療も新しい治療も、生活習慣の改善なくしては、大きな効果が期待できません。食事療法と運動療法は、糖尿病だけでなく、心臓病にも、脳の血管の病気にも良い効果をもたらします。

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