当クリニックの院内報「GYC通信Vol.16」を発行しました。今回は「糖尿病性腎症の食事」です。是非ご覧ください。
糖尿病性腎症の食事
●食事療法
腎症進展の予防には、肥満の是正、禁煙とともに、厳密な血糖、血圧、脂質の管理が重要とされます。また、糖尿病性腎症は表1 に示すとおり、病期別に食事内容を変化させる必要があります。
表1. 糖尿病性腎症病期別の栄養基準

日本糖尿病学会糖尿病性腎症合同委員会資料より一部改変
腎症1 期、2 期
・たんぱく質は総摂取カロリーの20%以下に抑える
・高血圧を合併している方は食塩を6g/日未満に制限
腎症3 期、4 期
・高血圧の有無に関わらず食塩を6g/日未満に制限
・たんぱく質摂取量は0.6~1.0g/kg 標準体重/日に制限
・腎症4 期では十分なエネルギーを摂取する※
※たんぱく質の摂取を制限しエネルギーも不足すると、筋肉が分解され
アミノ酸が体内で増加し、腎臓に負担をかけることになります。そのため、
たんぱく質摂取を制限する時は十分なエネルギーの確保が重要です。
腎症5 期
・厳しいたんぱく質制限は不要となるが、厳格な食塩・水分管理が必要

●たんぱく質の種類に注意を
たんぱく質には動物性たんぱく質と植物性たんぱく質があります。

<動物性たんぱく質>
メリット
・良質なたんぱく質で重要な栄養素を多く含む
・筋力低下の予防、改善が期待できる
・乳製品(特に低脂肪乳製品)が腎機能低下に保護的に働く可能性あ
デメリット
・飽和脂肪酸やコレステロールが多く動脈硬化、慢性腎臓病(CKD)、死亡リスク増加の報告あり
・腎機能低下リスクの高いリンの吸収率が高い(特に加工肉)
・尿毒性物質の産生を増加させる(特に赤肉)
<植物性たんぱく質>
メリット
・抗酸化力あり
・腎保護作用が期待できる
・摂取量が多いほど腎機能低下を遅らせる報告あり
デメリット
・不足しているアミノ酸がある
・栄養阻害因子を含むため吸収効率が劣る
植物性の割合を6 割以上に増やすことを勧めるデータ等も
ありますが、一致した意見は得られていません。
糖尿病性腎症を含む血管病を合併している方は
動・植物性たんぱく質の摂取を1:1 にしましょう。
カリウムの摂取を減らすコツ
カリウムは、生野菜や果物に多く含まれるミネラルで、体内のカリウムが多すぎると不整脈や心不全が起きやすくなります。

水やお湯に溶ける性質を持っているため野菜等は小さく切って「茹でこぼし」「流水にさらす」等で1/5~1/2 に減らすことができます。

腎機能検査を知ろう
◎腎臓の機能を示す検査
●eGFR(推定糸球体濾過量)
・腎臓の濾過能力を示す指標
・CKD(慢性腎臓病)/ 糖尿病性腎症の診断や、重症度分類に用いられる
・血清クレアチニン・年齢・性別等から算出
・腎機能低下で低値
●尿中アルブミン定量(TIA 法)
・糖尿病性腎症の早期発見に有効な検査
・試験紙の定性検査より感度が高い
・CKD / 糖尿病性腎症の診断や、重症度分類に用いられる
・腎機能低下で高値
CKD の重症度分類

●血清クレアチニン
・筋肉に含まれるタンパク質の老廃物
・筋肉量や運動の影響を受ける
・食事の影響を受けにくい
・腎機能低下で高値


●シスタチンC
・血液中に含まれるタンパク質の一種
・早期の腎機能障害のマーカー
・甲状腺機能の影響を受ける
・食事、筋肉量、年齢の影響を受けない
・腎機能低下で高値
●BUN(尿素窒素)
・タンパク質が利用された後にできる老廃物
・タンパク質の摂り過ぎ、脱水、発熱、消化管からの出血、甲状腺機能亢進症などの影響を受ける
・腎機能低下で高値

参照:一般社団法人全国腎臓病協議会、一般社団法人日本腎臓学会
◎透析導入原因第1位は糖尿病性腎症

様々な疾患が原因で透析になる方がいますが、その中でも糖尿病性腎症が原因の方が極めて多く、40%を超えています※。
生命維持に不可欠な半面、下記のような時間的、肉体的、金銭的なデメリットがあります。
・大多数の方が週2-3 回治療が必要
・医療費として年間約480 万円(本人負担12 万円)
・合併症(血管病、感染症、血圧異常等)の増加
・糖尿病患者は生命予後が不良
透析導入を未然に防ぐためには腎症の早期発見、早期治療により、病気の進行を遅らせることが重要です。
参照:一般社団法人全国腎臓病協議会、一般社団法人日本透析医学会
◎早期発見のカギとは!?
腎症は、自覚症状なく徐々に進行していきます。尿タンパクが陽性となったり、むくみを自覚するようになる頃には腎症はかなり進行している状態です。病気の進行を遅らせ、透析を回避するためには、出来るだけ早期に腎症を発見する必要があります。
早期の腎症を発見するには、
・微量アルブミン尿
・eGFR
この二つの定期的な検査が有効です。
腎症の発症は、年齢や糖尿病の罹病期間、血糖コントロールの良し悪しなどに影響され、また自覚症状も乏しく、検査なしで診断するのは困難です。
糖尿病の方は腎症を疑い、血糖コントロールを良好に保っている方でも定期的に検査を受けましょう。